オメガバース 絶対αとΩ

オメガバースの小説を書いてみたくて

5人の絶対αと一人(俺!)のΩ 三話-先生のいけないアドバイス3

授業直前だからなのか、廊下に人気はない。
静かな廊下を見回しながら雅は、
(中世ヨーロッパみたいな感じ。αの学校って、全部こんな感じなのかな?)
キョロキョロしている雅に、
「珍しい?雅のいた、βの学校とは違う?」
「あっと、うん。全然違うかな。前の学校は、アニメに出てくるみたいな四角いコンクリートの建物だったし、この学校は昔のヨーロッパのお城?みたいな」
「お城って言うより、修道院みたいじゃない?」
「ああ」
確かに、言われればお城の様な華やかさではなく、修道院みたいな厳粛な雰囲気だ。
「なんか、さすがαの学校は違うね。お金持ちって感じ」
「まあ、αの学校全部がこうじゃないと思うけど。ここはα教育の草分けだからね。設立当時、欧米に負けない教育を目指して、華美な雰囲気より厳かな学舎にしたって聞いたけど」
「へえ。なんか、やっぱりαって庶民とは違うんだな」
雅は少し背の高いうさを見ながら、
「うさ君も、お坊ちゃまなの?」
「お坊ちゃま?」
うさは、顔の前で手をヒラヒラさせながら、
「ないない(笑)俺は、至って普通のサラリーマン家庭の息子よ。Ωじゃなかったら、こんな高い授業料の学校に来てないって(笑)」
「そっか。俺もΩじゃなかったら、来れなかったな」
他愛のない話をしながら、学校を案内する。
「あれ、図書館ね。あっちは屋内プール、講堂。」
広々とした敷地に、施設が散らばってる。

5人の絶対αと一人(俺!)のΩ 三話-先生のいけないアドバイス2

ノックと同時に、応接室の扉が開いた。
「田代先生、お呼びですか?」
挨拶も無しに、部屋に入ってきたのは、すらりと背が高く、ちょっとつり目の狐顔の美人、いや、美少年だった。
田代先生は、手をヒラヒラさせながら、
「呼んだ、呼んだ。こっち来て」
「うちの担任でもないのに、呼び出さないでよ」
文句を言いつつも、ニコニコしながら、その美少年はみやびの近くまでやって来た。
「紹介するよ。今日からうちに来た、雅!俺のクラスだよ」
さっと手を広げて、雅を紹介する。
「雅、この子はA組のΩだよ」
「あっ!この子が噂の絶対αの選んだΩか!」
その美少年は、遠慮も無しに雅の頭から足先まで視線を這わせる。
「よろしく、俺もΩ。宇崎一世です!うさ君って呼んで」
人懐こい笑顔を見せて、雅の隣に腰掛けると、肩を抱いてきた。
雅は、急に肩を抱かれて驚いて、へどもどしながら、
「あ、初めまして雅です。えっと宇崎君?」
「固いなあ、うさでいいよ。うさで!」
田代先生が肩をちょっと竦めて、
「あれ?雅は人見知りか?宇崎君、親切にしてね。雅は、初めてαの学校に通うんだから。」
うさが不思議そうに首を傾げながら、
「初めて?え?今までは?」
「あ、俺は今までβの高校だったから」
「薬で発情を抑えて、βのふりしてたの?それは!大変だっただろう」
「えっと、そうじゃなくて‥」
雅がもごもごしてしまう。
「まあ、その辺はいつか話せるときに話しなさい。それより、宇崎、悪いんだけどさ。今日から暫く雅の面倒見てやってよ。うちの組は、ほらΩが今まで居なかったからさ。」
「面倒?別に良いけど。この子の面倒なら、絶対αの誰かに任せれば?」
田代先生は、目の前にある雅の転入書類をまとめながら、
「下手に誰かにお願いするとさ。お願いされない絶対αに恨みを買うからね。君子危うきに近寄らずだよ。雅については、常に公平に、誰かに偏らずに対応しないとね」
「まあね、元々αは競い合う生き物だし、Ω絡みなら熾烈になるのは目に見えてるもんね。その点、Ωの俺なら公平ってわけね!OK!」
雅に顔を向けて笑顔で、
「雅のことは、おれ!うさにお任せ下さい。雅、何でも聞いてよ」
「詳しいことは、追々で良いからさ。取り敢えず、うちの組に行くのは後回しで、学校案内しながら、学校でのΩの立場的な話ししてやってね」
田代先生は、書類を小脇に抱えて立ち上がり、それにつられて雅とうさも立ち上がる。
「じゃ、宜しくね」
「じゃあ、学校案内するから行こうか!」
「あ、宜しくお願いします」
雅は頭を下げて、田代先生、うさと一緒に応接室を出る。
「一通り案内しちゃって、A組の先生には宇崎を借りるって言ってあるから。一限目は出なくて良いよ」
「お!ラッキー!雅のお陰で得した!じゃ、先生失礼します!」
うさは、雅の肩を抱いて歩き出す。
「雅!何でも、宇崎に聞いていいからな!
宇崎、案内終わったら職員室連れてきて」
「はーい」
うさと雅は、田代先生に見送られて歩き出した。

5人の絶対αと一人(俺!)のΩ 三話-先生のいけないアドバイス

「じゃ、これで転入初日の注意事項は終わりです。はい、これ身に付けてね」
そう言って、担任の田代歩弥先生は、にっこり笑った。
ここは、白蘭の応接室。
雅は、田代先生から細かな説明を受けている。
田代先生は、小柄で、ピンクの頬っぺたをした可愛い先生だ。
男には興味のない、雅でも笑顔を向けられると、ドキドキしちゃう。
手渡された小箱は、少し大きめの宝石箱みたいに見える。
「これは?」
「開けてみて、学校が支給する防具だよ」
防具と言われて、何のことか分からず開けてみる。
宝石箱みたいな箱の中には、綺麗な銀のチョーカーが入っていた。
チョーカーの真ん中、首の中心にくる部分はピンクゴールドで学校の紋章が刻まれている。
「可愛い!これ、チョーカーじゃん。さすがαの名門は、入学するとこんなアクセまでくれるんだ!俺、似合うかな♥️」
ウキウキしながら、雅はチョーカーを側にある鏡の前で当ててみる。
「チョーカーじゃないよ!それは、対α番防止の防具だよ♥️。発情して、理性を失ったαに首を噛まれないよう、これからは必ず身に付けてね!」
「え?対α?」
ウキウキしていた雅の顔が、一瞬で曇る。
「そう!皆、抑制剤を飲んでるけど。Ωと番になるために、実力行使するおバカさんが居ないとは限らないからね」
田代先生は、全く邪気のない笑顔でそう言った。
「俺!番になるつもり全く無いから!俺の目標は、落第しない!大学まで白蘭に通って、ちゃんと就職する!ですから!」
田代先生は、あっさりと
「良いんじゃない?Ωだからって、αと番になる何て決められたくないよね。分かる、分かる」
と、頷きながら、
「だったら、尚のこと防具は必需品だよ。僕も在学中は、番持ちになるまで、着けていたし」
「え?先生はΩなの?」
「そう。Ωだよ。この学校にΩ枠で入学して、大学で教員資格とったの」
ニコニコ笑顔の田代先生は、
「僕もねえ、番とか強制されたみたいで嫌だった。Ωだからって、それしか未来がないみたいなのも抵抗感じたし。だから、好きな人が出来ても、最後の最後までそのチョーカーみたいな防具は、外さなかったよ。まあ、自分で納得して噛ませたけどね(笑)。僕の相手は、結構しんどかったみたいだけど(笑)」
首を摩りながら、
「Ωの安売りはする必要ないし。好きなαが出来ても、焦らして焦らして、最後に渋々って感じで番になる方が、αも燃えて愛も深まるし。その辺は、Ωが上手くコントロールするのもありだよね」
ピンクの頬っぺたの可愛い先生は、可愛い小悪魔の顔をして、にっこり笑った。
「焦らしたとか、そんなんじゃなくて!本当に番に興味ないんで!」
雅は、ちょっと語気を強めて改めて言う。
先生は大丈夫、分かってるよって感じで頷いている。
そこへ、トントントンとノックがして、
「失礼します。入ります」
と、声を掛けて誰か入ってくる。

5人の絶対αと一人(俺!)のΩ Ωの視点

アッシュピンクに染めた髪を一掴みして、鏡の前で前髪の具合を見る。
ちょっと長めの前髪は、3ヶ月前に初めて付き合った彼女である紗智が、
「男の子のポンパドールが好きなの♥️」って、何気に呟いたから伸ばし始めた。
アッシュピンクの髪の色も、紗智が好きなアニメキャラを真似て染め始めた。
彼女の好きな髪型は、見せることなく振られたけど…。

「ちょっと横を出して…よし、こんな感じかな?」
鏡に写る前髪を上に下に、顔を動かして確認して、
「うん、いい感じ」
と、一人言を言いながら満足して見つめる。

「雅!学校に遅れるわよ!初日から遅刻するの!」
母親のイラッとした声が呼ぶ。
「今、行くよ!」
真新しい、白いジャケットに袖を通して、部屋のドアを乱暴に開けて、廊下に出る。

キッチンでは、母親がトーストを皿にのせテーブルに起きながら、やっと食卓に付いた雅に、
「全く!初日から、遅刻したらどうするの!」
と、お小言を漏らす。
「初日だからきめて行きたいの!」
「いくら、見た目を変えてもねえ」
「いいの!αの名門白蘭じゃ、他には競えないもん」
ちょっと、ご機嫌斜めの声で答えると、
「確かにねえ…Ωじゃ、βの学校に行くわけにはいかないし」

この世界には、α、β、Ωと言う種別がある。
殆どの人がβに生れ、大勢の普通の人がこれに当たる。
αはβ、Ωより全てに秀でているが、αの親から必ずαが生まれるとは限らない。
αとβなら殆どβに、α同士でも2割程度の確率でしか、αは生まれない。
αが確実にαの子を設けるには、Ωと番になるしかない。
Ωは、遺伝的にαやβより劣性遺伝とされるため、αとΩなら確実にαが、βとなら殆どβが生まれる。
遺伝的に劣性のΩには発情期があり、そのフェロモンでαは発情し、発情したαがΩの首を噛むと番となる。
αにとって、Ωの発情期のフェロモンは麻薬と同じ。
αはΩのフェロモンで発情したら、そのΩと番になるか、発情させたΩが誰かの番とならない限り、発情させたΩから逃れられない。
発情期のΩは、αにとって強烈な刺激であり、最高の媚薬である。
αは幸せも快楽も、子孫さえΩを番として娶るか、番になれないかで大きく変わる。
その為、支配階級であるαにより、Ωと判定された者はαと番となるために、βの学校ではなく、αの為の学校にΩ枠で通うことが義務付けられている。

「いいじゃん!Ω枠でも、白蘭の卒業生なら、就職にも困らないし」
雅は頭を左右に振りながら、返事をする。
「番の相手、見付けないの?」
「嫌だよ。α嫌いだもん」
雅は、口を尖らせる。
「そうは言ってもねえ。βなら、それで良いけど、あんたΩになったんだから」
そう、雅はつい1ヶ月前まではβだった。
普通にβの学校に通って、βの彼女が出来て、自分は優秀なαじゃないけど、βとして働いて、いつかは結婚をして、子供を持つ。
そんな人生に何の疑問も不満もなかった。
なのに、Xmasのスクランブル交差点で、発情期を起こして倒れ、スクランブル交差点を大混乱にするところだった。
たまたま側にいたお医者様に助けられたけど、誰も助けてくれなかったら、どうなっていたかと思うと恐ろしい。
雅はβとして判定されていたが、明らかな発情期の症状に、再検査を受けたら結果はΩだった。
その判定結果を伝えられた時、雅は納得できなかったけど、医者は、
「本当に少ない症例ですが、希にβ性からΩ性に変わる事があるんですよね。何故、その様な症例が起きるのかは不明な所が多いのですが…要因の一つに相性の良いαとの接触が考えられます。」
「αとの接触?」
「でも、俺はβでαなんて周りに居ないです」
「相性が90から100%のαなら、ほんの少し接触しただけでも、Ω、α双方が激しく発情すると言われてます」
「100?そんな相性あるの?」
頓狂な声で聞いた雅に、医者は、
「普通は、60から70%かな。70%を越えれば、番になるには十分とされてます」
医者は、顎を掻きながら、
「でも、βの中に隠れたΩ性が発情するとなれば、少なくとも90%以上じゃないと。発情期を起こしたときの事は覚えてる?」
と、聞かれて、雅はスクランブル交差点での事を考えるが、
「突然すぎて何も覚えてません」
と、首を小さく左右に振る。
「そうだよね、初めての発情期だし。況してや後天的なΩ性への変異だから、雅君はパニック状態で周りまで見えてないよね」
医者はうんうんと、納得したように頷いていた。
「まあ、経緯はともかく、Ωとなったからには、今までと同じ生活は出来ないかな」
雅は、不安そうに医者を見る。
「Ωとβじゃ、国からの扱いが全く違うからね。希少なΩには、国からの手厚い保護がある。まあ、βより規制も増えるし、周りの見方も変わるけど。うちの病院でも、Ωの子の為のカウンセラーが居るから、カウンセリングの予約もしておこうね」
「カウンセリング?」
「雅君は、特に突然Ω性が表に出たからね。カウンセリングと僕の診察は、暫くは2週間置き。もし、体調不良やメンタルで不安になったら、予約なしでも良いから、直ぐに来て受診してね。あと、ピルも処方するから、必ず飲んでね。学校で発情期を起こしたら、危ないから」
「学校?危ないの?」
「大丈夫、ピルを飲んで発情期を管理して、いざと言うときは自分で打つ即効性の判子注射も渡すから。それにαの子だって、抑制剤を飲んでるから」
ピル、判子注射、抑制剤と言われて、雅の目が不安の為に落ち着きなく揺れる。
「αの子だって、無理矢理な事はしないよ。Ωの子に同意無しで何かしたら、犯罪だからね。αも犯罪者になりたくはないからさ。」
「Ωって…」
「薬に慣れるまでは、学校に行かなくて良いから。薬に慣れて、発情期が安定したら登校するように」
そう言われて、ピルを処方された。
処方された薬が効いて、発情期の周期や体調に問題なしと、診断され、初めての発情から3ヶ月やっと今日から新しい学校に通うことになったのだ。

「とにかく、薬を飲んで真面目に学校に通って、大学まで卒業するから!」
最後の一口のトーストを、口に押込み、
「番とか、考えないで学校行く!αとか、Ωとか面倒なこと嫌だもん」
と、席を立ち、玄関に向かう。
「雅、Ω枠でも落第するのよ」
母親の言葉に、チラッと振り向いて、
「落第しない事を目標に頑張ります!」
と、力瘤を作って、元気よく玄関を出る!
マンションの廊下に出て、春の空を見上げて、
「落第しないぞ!」
と、改めて言葉にして、雅は大股に歩きだした。

5人の絶対αと一人(俺!)のΩ αの視点

渋谷ののスクランブル交差点。
数百人、時には数千人が行き交う中、一際人目を引く5人が周りをざわつかせている。
真っ白なブレザーに、黒いパンツ。
ブレザーの胸元には、交差する⚔️と蘭の華。
全てに秀でたαだけが通う名門校、白蘭高等学校の制服だ。
信号待ちする女子高校生が、5人を見て歓喜の声を上げる。
「やだー!」
「絶対αが揃ってる♥️」
「目の保養過ぎでしょう!」
「一人だけでも見れたらラッキーなのに、5人全員ってマジでヤバイ」
女の子達の視線を釘付けにするのは、絶対αと言われる5人。

「天音将門よ!本物見れるなんて、死んでもいい」
そう、言われたのは5人の中では小柄な美少年。
尤も、他の四人が185㎝前後なので小さく見えるだけなのだが。
天音将門は、大河ドラマ常連の大物俳優と日本で最も美しい女優を両親に持つ2世タレントだ。
母親譲りの女の子と言っても通る美貌に、父親譲りの才能でドラマや映画に引っ張りだこの役者だ。最近は、音楽活動にも才能を開花させ、日本だけでなくアジア全体に熱狂的なファンを持つ。
見られることに慣れている彼は、女の子達の黄色い歓声や不躾な視線も意に介さず、ニコニコしながら手を降ったりしている。
その笑顔は、抱かれたい、抱きたい、癒されるとどんなアンケートでも、No.1を獲得する程の人気があるが、将門の心の裏側では…。
子供の頃から芸能界に生き、上部だけの自分にすり寄ってくる、ヒートを使い自分を垂らしこ込もうと策略を巡らせるΩに嫌気がさし、αとしてΩと番になることが幸せなのかと、冷めた気持ちでいる。

天音将門の隣に立つのは、金髪、碧眼のアラン.ルイ=神崎。
父親は世界的なホテルグループのオーナーで、母親が日本人。
女の子達からは、
「アラン様、神々しい美しい」
「白馬の王子さまにしか見えない」
と言われ、男性からも
「抱かれたいかも♥️」
など、男女問わずに、その色香に惑わされる人が後を絶たない。
天音将門と違い、愛想を見せず淡々と立つ姿が却って、ギリシャの太陽の神アポロンの様な美貌に似合い、周りの感嘆を誘う。
アラン自身は、騒がれる事に苛立ちを感じているが、それを悟られる様な隙は見せない。
いつも、感情を表には出さず、静かな湖面の様に微笑をたたえている。
優しそうな笑顔に誰もが魅了されるが、心の内側には簡単には入ることが出来ない男だ。
周りがいくら、持て囃しても、運命のΩと出会うなんて、夢のまた夢。
トップに立つ人間として、Ωとの番う事だけは、生まれたときから、決まっている。
ならば、心の内側に誰かを住まわせる必要はない。

アランとは対照的なのは、夜の闇を思わせる漆黒の髪に、鋭い目差、迂闊には近寄れない雰囲気を持つ
高梨静香。
可愛らしい名前に反して、関東を束ねるヤクザ高梨組の後継者だ。
中学生までは、ケンカ上等!売られたら、倍返しの勢いで、暴れていたが、最近は高校生ながら、組の後継者として父親の3代目組長を補佐し、下の人間や組の傘下にある舎弟企業を統率するようになり、カリスマ性に磨きがかかり、女の子からは、
「静香御前、今日も冷たそう♥️」
「一度で良いから、抱かれてみたい!」
と、熱い吐息を吐かせているが、静香本人はニコリともしない。
女には、全く困らない。
β、Ω、α関係なく手を出すが、抱きたいときに側に居るなら誰でも構わない。
セックスに対して貪欲でいるが、相手には全く執着がない。
αである自分は、組のため、参加の人間のため、Ωと番になる事だけを求められてる。
運命のΩなんて都市伝説は、信じていない。
求めるだけ無駄なら、誰も望まないと決めている。

高梨静香の側には、濃いめの茶色い髪に、鳶色の瞳、穏やかで気品のある佇まいの男、佐賀美涼丞が立っている。
一見、穏やかで大人しい優男に見えるが、187㎝を越える長身に、鍛えられた胸板の細身の姿は、パリコレに出るモデルにも負けないほど、均整がとれている。
αが通う名門、白蘭大学の創始者であり、日本のα教育の父と謳われる、佐賀美典膳の血筋で、幼稚園から大学まで有する白蘭大学付属全ての実権を握る佐賀美家の跡取りだ。
教育者の家柄の跡取りだけに、誰に対しても公正で、思いやりがあり、αが通う学内の中でも、図抜けた知性と判断力を持つ、生まれながらに人の上に立つオーラを放ち、男女を問わずに、抱かれてみたい男として、白蘭の学内、近隣の学校の生徒の憧れの対象だ。
「お嫁さんになりたい♥️」
「見つめられたい♥️」
と、中学を卒業する頃から、番たい男として、縁談は引きも切らない。
佐賀美涼丞は、親や親族から強制される、ただαと番になりたい、条件のよいαだけを求めるΩと一生を共にするのかと、心をうんでいるだが。

そんな友人たちの中で、一人だけ運命のΩとの出会いを信じて疑わない男がいる。
188㎝の高身長、無駄肉は一切ない引き締まった体、さらさらと流れるような煌めく黒髪に、意志の強そうな眉、男らしい容姿だが、たれ目ぎみの目元には愛嬌があり、人懐こい表情で大きな口元を綻ばせて笑う男。
我が儘で一筋縄ではいかない、絶対αの中で、友人たちを纏めて、群のリーダーとして信頼と統率力を発揮する、それが山王寺タケルだ。
彼は、江戸時代から続く巨大企業グールプ山王寺財閥の次の当主であり、今の当主の代行として、山王寺のグールプ企業数社を経営する若き財界人でもある。
江戸のころ、大阪の鴻池、江戸の山王寺と言われる程の財力と勢力を誇り、その発言は幕府をも無視できないと言われていた。
現在は金融、不動産、総合商社、ネットビジネスなと山王寺の名前を持つ企業も多彩だ。
αはΩと番になる。
それがαの幸せであり、αと言う優秀な遺伝子を残す最良の道と言われている。
αの家系では、Ωとの結婚を優先するあまり、気持ちや愛情など、個人の感情は無視され、番、結婚をする者も少なくない。
だが、α随一の名家である山王寺にはそれがない。
山王寺の人間は、出会ったΩ、番となったΩこそ運命の相手と素直に信じてしまう。
もちろん、質の悪いΩに出会わぬ様に、代々忠誠を誓い仕えてくれる人間の並々ならぬ努力の結果だけど。
それでも、タケルの両親、姉夫婦は、互いに愛し愛され、運命の相手と幸せな結婚を、番となったと言い切る。だから、運命のΩは必ずいると。
時かくれば、自然と出会う。
出会えば、目と目で分かりあい、一瞬で気がつく。
冷めた友人にも、度々繰り返す。
友人たちは、タケルが無邪気に話す側で、羨ましいと思いつつ、出会いを果たせず、苦悩する日が来るのを心配していた。

Xmasも近いこの日、普段はそれぞれ忙しく揃って出掛ける事もない5人が、時間があるなら食事をしようと言い出したタケルの発言で出掛けることになった。
将門が、たまには5人で街を歩きたい。
Xmasの装飾に彩られた街を歩きたいといい、白蘭から会場のホテル(アランが経営を任されてる)まで歩くことになった。
渋谷の交差点で信号待ちをし、周りの女の子たちを歓喜の渦に巻き込んだ彼らが、後数歩で運命と出会う。
信号が変り、スクランブル交差点を歩き出した彼らに甘く芳しい匂いが漂ってくる。少しずつ、匂いが濃くなる。
最初はいい匂いがする程度だったが、匂いが濃くなるのにあわせ、心臓が高鳴り、耳の奥でどくどくと脈が打ち出す。
匂いに体が反応して、体温が高まり、息も苦しい。
5人は直感で状況を理解した。αは、運命のΩが近くにいることを体で感じる。
将門は、「Ωだ。運命のΩが近くにいる」
アランは、「まさか運命のΩと出会ったのか?」
静香は、「有り得ない、運命など」
涼丞は、「感じるΩだ。これは、運命のΩだ」
タケルは、「愛しい匂い、香りだけで奪われる」
運命のΩを信じていた者、疑っていた者、諦めていた者、Ωに対して嫌気が差していたもの、必要としていなかった者、各々に運命のΩが現れた。
もう目の前にいる。