オメガバース 絶対αとΩ

オメガバースの小説を書いてみたくて

5人の絶対αと一人(俺!)のΩ Ωの視点

アッシュピンクに染めた髪を一掴みして、鏡の前で前髪の具合を見る。
ちょっと長めの前髪は、3ヶ月前に初めて付き合った彼女である紗智が、
「男の子のポンパドールが好きなの♥️」って、何気に呟いたから伸ばし始めた。
アッシュピンクの髪の色も、紗智が好きなアニメキャラを真似て染め始めた。
彼女の好きな髪型は、見せることなく振られたけど…。

「ちょっと横を出して…よし、こんな感じかな?」
鏡に写る前髪を上に下に、顔を動かして確認して、
「うん、いい感じ」
と、一人言を言いながら満足して見つめる。

「雅!学校に遅れるわよ!初日から遅刻するの!」
母親のイラッとした声が呼ぶ。
「今、行くよ!」
真新しい、白いジャケットに袖を通して、部屋のドアを乱暴に開けて、廊下に出る。

キッチンでは、母親がトーストを皿にのせテーブルに起きながら、やっと食卓に付いた雅に、
「全く!初日から、遅刻したらどうするの!」
と、お小言を漏らす。
「初日だからきめて行きたいの!」
「いくら、見た目を変えてもねえ」
「いいの!αの名門白蘭じゃ、他には競えないもん」
ちょっと、ご機嫌斜めの声で答えると、
「確かにねえ…Ωじゃ、βの学校に行くわけにはいかないし」

この世界には、α、β、Ωと言う種別がある。
殆どの人がβに生れ、大勢の普通の人がこれに当たる。
αはβ、Ωより全てに秀でているが、αの親から必ずαが生まれるとは限らない。
αとβなら殆どβに、α同士でも2割程度の確率でしか、αは生まれない。
αが確実にαの子を設けるには、Ωと番になるしかない。
Ωは、遺伝的にαやβより劣性遺伝とされるため、αとΩなら確実にαが、βとなら殆どβが生まれる。
遺伝的に劣性のΩには発情期があり、そのフェロモンでαは発情し、発情したαがΩの首を噛むと番となる。
αにとって、Ωの発情期のフェロモンは麻薬と同じ。
αはΩのフェロモンで発情したら、そのΩと番になるか、発情させたΩが誰かの番とならない限り、発情させたΩから逃れられない。
発情期のΩは、αにとって強烈な刺激であり、最高の媚薬である。
αは幸せも快楽も、子孫さえΩを番として娶るか、番になれないかで大きく変わる。
その為、支配階級であるαにより、Ωと判定された者はαと番となるために、βの学校ではなく、αの為の学校にΩ枠で通うことが義務付けられている。

「いいじゃん!Ω枠でも、白蘭の卒業生なら、就職にも困らないし」
雅は頭を左右に振りながら、返事をする。
「番の相手、見付けないの?」
「嫌だよ。α嫌いだもん」
雅は、口を尖らせる。
「そうは言ってもねえ。βなら、それで良いけど、あんたΩになったんだから」
そう、雅はつい1ヶ月前まではβだった。
普通にβの学校に通って、βの彼女が出来て、自分は優秀なαじゃないけど、βとして働いて、いつかは結婚をして、子供を持つ。
そんな人生に何の疑問も不満もなかった。
なのに、Xmasのスクランブル交差点で、発情期を起こして倒れ、スクランブル交差点を大混乱にするところだった。
たまたま側にいたお医者様に助けられたけど、誰も助けてくれなかったら、どうなっていたかと思うと恐ろしい。
雅はβとして判定されていたが、明らかな発情期の症状に、再検査を受けたら結果はΩだった。
その判定結果を伝えられた時、雅は納得できなかったけど、医者は、
「本当に少ない症例ですが、希にβ性からΩ性に変わる事があるんですよね。何故、その様な症例が起きるのかは不明な所が多いのですが…要因の一つに相性の良いαとの接触が考えられます。」
「αとの接触?」
「でも、俺はβでαなんて周りに居ないです」
「相性が90から100%のαなら、ほんの少し接触しただけでも、Ω、α双方が激しく発情すると言われてます」
「100?そんな相性あるの?」
頓狂な声で聞いた雅に、医者は、
「普通は、60から70%かな。70%を越えれば、番になるには十分とされてます」
医者は、顎を掻きながら、
「でも、βの中に隠れたΩ性が発情するとなれば、少なくとも90%以上じゃないと。発情期を起こしたときの事は覚えてる?」
と、聞かれて、雅はスクランブル交差点での事を考えるが、
「突然すぎて何も覚えてません」
と、首を小さく左右に振る。
「そうだよね、初めての発情期だし。況してや後天的なΩ性への変異だから、雅君はパニック状態で周りまで見えてないよね」
医者はうんうんと、納得したように頷いていた。
「まあ、経緯はともかく、Ωとなったからには、今までと同じ生活は出来ないかな」
雅は、不安そうに医者を見る。
「Ωとβじゃ、国からの扱いが全く違うからね。希少なΩには、国からの手厚い保護がある。まあ、βより規制も増えるし、周りの見方も変わるけど。うちの病院でも、Ωの子の為のカウンセラーが居るから、カウンセリングの予約もしておこうね」
「カウンセリング?」
「雅君は、特に突然Ω性が表に出たからね。カウンセリングと僕の診察は、暫くは2週間置き。もし、体調不良やメンタルで不安になったら、予約なしでも良いから、直ぐに来て受診してね。あと、ピルも処方するから、必ず飲んでね。学校で発情期を起こしたら、危ないから」
「学校?危ないの?」
「大丈夫、ピルを飲んで発情期を管理して、いざと言うときは自分で打つ即効性の判子注射も渡すから。それにαの子だって、抑制剤を飲んでるから」
ピル、判子注射、抑制剤と言われて、雅の目が不安の為に落ち着きなく揺れる。
「αの子だって、無理矢理な事はしないよ。Ωの子に同意無しで何かしたら、犯罪だからね。αも犯罪者になりたくはないからさ。」
「Ωって…」
「薬に慣れるまでは、学校に行かなくて良いから。薬に慣れて、発情期が安定したら登校するように」
そう言われて、ピルを処方された。
処方された薬が効いて、発情期の周期や体調に問題なしと、診断され、初めての発情から3ヶ月やっと今日から新しい学校に通うことになったのだ。

「とにかく、薬を飲んで真面目に学校に通って、大学まで卒業するから!」
最後の一口のトーストを、口に押込み、
「番とか、考えないで学校行く!αとか、Ωとか面倒なこと嫌だもん」
と、席を立ち、玄関に向かう。
「雅、Ω枠でも落第するのよ」
母親の言葉に、チラッと振り向いて、
「落第しない事を目標に頑張ります!」
と、力瘤を作って、元気よく玄関を出る!
マンションの廊下に出て、春の空を見上げて、
「落第しないぞ!」
と、改めて言葉にして、雅は大股に歩きだした。